【映像翻訳】"Kafka in action" 〜記憶に残った字幕〜備忘録2
2018年1月7日
グッド・ワイフ 彼女の評決 シーズン6−3 聖なる仲裁人
映像翻訳を習い始めて早1年。映像作品を見るときは、どうしても字幕に目がいくようになってしまった。
映画やドラマは勉強としてではなく娯楽として観ている。でも折角なので、良いなと感じたり、目から鱗が落ちた!字幕は書き留めておこうと思い、ドラマ・映画の台詞を一部引用して記させていただく。
気に留まる字幕には毎日出会えているのだが、書き留める時間を取れていないのが昨年の反省点。今年は一週間に一回くらいは更新できるかな。
今回も、弁護士ドラマのThe Good Wifeから引用する。シーズン6−3のある場面である。背景の説明をば、簡潔に。
女性弁護士のダイアン・ロックハート(中央)は、所属する弁護士事務所のパートナー、ケーリー・アゴス(画面右)の弁護を務める。
弁護士のケーリーは以前、身に覚えのない薬物所持の容疑で逮捕された。事務所や自らの顧客の協力によって何とか保釈金を支払い、保釈されたばかりである。
しかし安堵のため息をつけたのもほんの束の間。保釈されたケーリーに対し、検事補フィン・ポルマー(画面左)が保釈の取り消しを要求してきたのだ。
保釈の取り消しを求める検事補の発言を受け、ダイアンは裁判官に次のセリフで意義を唱える。
"This is-- This is Kafka in action."
ん?活動中のカフカ?どういうこと?言いたいことはわかるけど、どう訳すのだ?
少し前に遡って会話を追ってみたい。
青文字:裁判官 黒文字:ダイアン
ダイアン:
Mr. Agos has already been through a source of funds hearing.
保釈金の資金源も確認済み
Now the county wants a revocation of bail hearing?
This is-- This is Kafka in action.
ここで保釈の取り消しとは
理不尽です
裁判官:
The longer I live, the more I realize that everything is Kafka in action.
世の中には理不尽なことだらけだ
カフカに対する言及があったのは上のやり取りだけであり、この前のエピソードを見てもこの後の展開を見てもカフカが登場する場面はない。
よって、この作品の中で、”カフカ”が特別な意味を持っているわけではなさそう。
ということは、ここでダイアンが"カフカ"と言うことで表したかった意味とは、世間一般的なカフカに対する認識と等しいことが考えられる。
カフカの作品がどれほど世間一般の人々に認識されているかはわからない。しかし、少なくともこの場面を構成する人物は、検事補と弁護士と裁判官という教育水準の非常に高い人たちだ。そのため、最低限の文学的素養は各々が備えており、共通の認識があるという設定であると考えられる。
では文学的素養がある人々のカフカに対する共通理解とは何であろう?
まず、"Kafka in action"というフレーズをググってみた。しかしヒットするものは無関係の商品のみ。何か慣用句として使われているわけではなさそうだ。
次はカフカの作品に共通して表されているテーマを探してみる。対する私の理解が浅いため、この共通認識を深掘りするには時間がかかる。昔、学生の頃にカフカの代表作の一つである「変身」を一読した時に真っ先に心に浮かんだ感想は「気持ち悪い」であった。それから、「無常感」を感じた記憶もある。
私がこの字幕を翻訳するのであれば、カフカの作品をもう一度数作読み、共通する概念を洗いざらい浮き出して、その中からこの場面に最適な単語を選びたいと思う。
この字幕を訳された方(どなたか存じ上げません。失礼な事を書いていたら申し訳ありません)もきっと、限られた時間の中でカフカの作品を読み漁り、カフカの作品が意味する事を濃縮してから、この場面にぴったりのワードチョイスを抽出してこられたのだろうなと思う。
何れにしても、身に覚えのない罪で逮捕され、保釈金を払って保釈されたにもかかわらず保釈を取り消しされそうになっているケーリーの境遇にぴったりな言葉は?と考えると、”理不尽”と訳出して間違いはなさそうだ(もちろん正解もないが)。あるいは”不条理”でもいいかもしれない。
教養の高いダイアン独特の語彙に、頭をひねらされた場面であった。
もう一度、カフカの作品も読んでみたいと思う。